腹部エコー検査おいて臓器を診る順番は特に決まっていません。
施設又は個人によっても異なると思います。
(効率的におこなうために順番を決めている方や決まっている施設もあると思いますが。)
ここで紹介するのは大まかな私の手順(消化器内科において、はじめて腹部エコー検査をする研修医用に作成したもの)です。
ただの参考としてご覧くださいませ。
もくじ
腹部エコーを始める前に
●本ページは、bechiと若葉がご案内します。
※検査は通常、イラストのように患者さんの横に腰かけて検査します。
患者さんの状態を把握する
腹痛の部位から疾患を予測する
症状や病態の医学英語と医学略語
腹部エコー検査に必要なおもな血液検査データの見方
おもな腫瘍マーカーの種類と基準値(正常値)一覧
参考書籍
検査値の読み方、異常値・パニック値の判断のコツについて臨床検査専門医が分かりやすく解説しています。
現場で使える読み方が身に付く1冊です。
走査とおもなチェック項目
始めていいですか?
エコーに患者情報を入力してから始めてください。
心窩部縦走査
腹部大動脈(大動脈の正常径は一般的に腹部で20mmとされている。)や下大静脈(拡張、呼吸性変動)などの血管の異常の有無。
※基準値は、各施設でご確認ください。
肝臓の形(辺縁や実質の様子。)や大きさ。
肝臓の病変の有無。[左葉も隅々まで観察する。☞扇動走査(せんどうそうさ)をおこなう。]
肝内胆管の様子。
胃や膵臓の病変の有無。
腫大したリンパ節の有無。
この走査でみつけることができるおもな病気慢性肝障害・肝硬変・肝内胆管拡張・肝腫瘍(肝細胞癌・肝血管腫・転移性肝癌)・消化管腫瘍(胃癌)・膵腫瘍(膵癌など)・AAA・下大静脈拡張・リンパ節腫大
心窩部横走査~右肋骨弓下走査
そんな時は、患者さんに息を深く吸ったり、吐いたり、(息を)止めてもらったりして、目的の臓器を見やすい位置に移動させてから観察しましょう。
肋骨弓(ろっこつきゅう)とは?
第7から第10肋骨の前部が連結してできる弓状の部分。
肝臓S1〜S4[クイノー( Couinaud )分類]を中心に観察。(肝臓実質の病変の有無。)
S1もしっかり見よう。
CT等(横断像)で見るクイノー分類
※「千臨技会誌 2012 No.2 通巻115」から引用させていただいてます。
◉別の分類(Healey& Schroy分類)を使用する施設もあります。各施設にてご確認くださいませ。
門脈、肝管、胆嚢の病変の有無。
肝静脈と下大静脈の観察。(拡張の有無など。)
肝臓S5〜S8[クイノー( Couinaud )分類]を観察。(肝臓実質の病変の有無。)
※別の分類(Healey& Schroy分類)を使用する施設もあります。各施設にてご確認くださいませ。
腹水の有無。
この走査でみつけることができるおもな病気肝腫瘍(肝細胞癌・肝血管腫・転移性肝癌)・肝膿瘍・肝嚢胞・胆嚢内腫瘍(胆嚢癌など)・胆石・胆嚢ポリープ・肝静脈拡張(うっ血肝)・門脈腫瘍塞栓・肝内胆管拡張・腹水
右肋間走査
門脈や胆管の病変の有無。
胆嚢の病変の有無。
肝右葉の病変の有無を再チェック。
腹水の有無。
この走査でみつけることができるおもな病気肝腫瘍(肝細胞癌・肝血管腫・転移性肝癌)・肝嚢胞・肝膿瘍・肝内胆管拡張・胆嚢内腫瘍(胆嚢癌など)・胆石・胆嚢ポリープ・腹水・胸水
右季肋部縦走査(左下側臥位)
例えば、『むこう向きで真横になってください』などと声をかけましょう。
※左下側臥位
胆嚢の病変の有無を詳しく再チェック。
・腫大や壁肥厚(径が4ミリ以上)の有無。
※基準値は、各施設でご確認ください。
・胆石、胆泥、ポリープ様病変、腫瘍などの有無。(体位変換で可動性の有無を確認する。)
総胆管の拡張(径は7ミリ以下が正常)や病変(結石、腫瘍)の有無。
7mm以下を正常、
7~11mmはborderline、
11mmを越える場合は明らかに異常とします 。
※基準値は、各施設でご確認ください。
総胆管の観察法
体位:右季肋部縦走査(左下側臥位)
①まず図のように、プローブをお腹の真ん中にまっすぐ当てる。(心窩部縦走査の状態)
②次にプローブを図のように(矢印側のみ)スライドさせる。
門脈の病変の有無。
この走査でみつけることができるおもな病気胆嚢結石・胆嚢ポリープ・胆嚢内腫瘍(胆嚢癌など)・急性胆嚢炎・総胆管結石・総胆管拡張・胆嚢腺筋腫症・肝腫瘍(肝癌など)
右側腹部縦走査
肝右葉の形(辺縁や実質の様子)。
肝右葉の病変の有無を再チェック。
肝内胆管の様子。
腹水の有無(モリソン窩など)。
肝臓と腎臓のコントラスト(肝腎コントラスト/HーR contrast)。
☞肝臓と腎臓のエコー輝度の差から肝脂肪の沈着の程度をみる。
右腎の病変(腫瘍、結石、腎盂拡張など)の有無。
※右側腹部斜走査でおこなう場合もある。
この走査でみつけることができるおもな病気腎腫瘍(腎癌など)・水腎症(腎盂拡張)・腎結石・腎嚢胞・腎血管筋脂肪腫・副腎腫瘍・慢性肝障害・脂肪肝・肝硬変・肝腫瘍(肝癌・肝血管腫など)・肝内胆管拡張・腹水
左側腹部斜走査
左腎の病変の有無。
※扇動走査とは?
肋骨弓下走査の際は、探触子の扇動走査を行うことが見落としを防ぐために有用です。肋骨弓下に探触子を当てて、そこから探触子を腹壁に接するぐらいまで寝かせていって、肝臓を端から端まで見落としがないように観察していく走査法です。
本ページでは、より広義に「どの走査でもプローブをしっかり傾けて隅々まで見落とないように診る」という意味で使用しています。
肝臓の死角となりやすい部位は?
特に横隔膜直下のS7、S8と、右葉の辺縁(下縁)、および左葉外側の辺縁です。
文章一部引用:『腹部超音波検査』ドクターサロン56巻3月号(2 . 2012)杏林大学第三内科准教授森秀明
イラスト:bechi
この走査でみつけることができるおもな病気腎嚢胞・腎腫瘍(腎癌など)・水腎症(腎盂拡張)・腎結石・腎血管筋脂肪腫・副腎腫瘍
左肋間走査
脾臓の病変の有無及びサイズ。
脾門部及び脾周囲の観察。
腹水、胸水の有無。
spleen index=a×b
脾腫 >20㎠
※千葉大学第一内科の計測法
この走査でみつけることができるおもな病気脾腫・副脾・脾膿瘍・脾梗塞・脾腫瘍(転移性・血管腫・悪性リンパ腫など)・ガムナ・ガンディ結節・脾リンパ管腫・腹水・胸水
心窩部横走査
膵臓実質(厚みは頭部25ミリ、体尾部は20ミリ以下が正常)及び主膵管(径は2ミリ以下が正常)等の病変の有無。膵臓周囲の観察。
※基準値は、各施設でご確認ください。
消化管や血管の病変の有無。
この走査でみつけることができるおもな病気膵腫瘍(膵癌など)・膵管拡張・膵石・急性膵炎・AAA・腹水・消化管腫瘍(胃癌)・リンパ節腫大・肝腫瘍(肝癌など)
ここでは触れませんが、更に膀胱、前立腺、消化器系、婦人科領域などの観察が必要となることがあります。
実在の人物・病院とは一切関係 ありません
参考ページ
まとめ
いろいろな手順がありますが結局、病変を見落とさなければいいのです。(これが難しいのだが。)
どの部位も複数回、(見る方向や体位を変えるなど工夫する。)目を皿のようにして観察しましょう。
検者の能力によって差が出る検査です。初めのうちは、大切な所見を見落としがちです。必ず医師又は経験豊富な技師のチェックを受けましょう。
経験を積んでエコーからより多く、そして正確な情報を入手できるように日々努力しましょう。
あわせて読みたい腹部エコーにおける各臓器の基準値の一覧です。
腹部エコー初心者向けのプローブの当て方とエコー画像の見え方
腹部エコー初心者におすすめのテキスト一覧